相談者:
先生の事務所がある京都には、代々続く老舗が数多くありますね。住む場所とお店と工場が一つ屋根の下にあって、家族みんなで手伝いながら続けている。そのような老舗の方も法律の相談に来られるのでしょうか?
日下部:
はい。いつの世も後を絶たないのは相続問題でして、京都の老舗も例外ではありません。亡くなった当主の跡取りと他の兄弟との間で揉め事が起こる、なんてこともあるのです。
相談者:
老舗ともなると、家を売って金銭を平等に分けるわけにはいかなさそうです。それに、跡継ぎが長く家を手伝っていて、他の兄弟は他所へ出て行ってしまっていることもありますね。兄弟間で相続分に差はないと聞いたことがあります。跡継ぎと家を出て行った兄弟の相続分が同じだと、跡継ぎは不満に思うのではないでしょうか。
日下部:
鋭いですね。親である先代が遺言を残してくれていれば、遺言に従って遺産を分けることになります。遺言がない場合は法律に従います。仰るとおり、日本の法律では兄弟で遺産を平等に相続することになっています。不動産は切って分けるわけにはいかないため、次の二つの手段のどちらかを選ぶ必要があります。
(1)不動産を売却するなどしてお金に換え、そのお金を分ける
(2)長男が代償金を兄弟に支払う
不動産を売却してしまうと家業を継続していくことはできないでしょう。(2)の代償金とは、不動産の価格を考え、名義人である長男が、兄弟も貰えるはずだった分を兄弟に払うときのお金のことです。兄弟が多ければ多いほど長男が用意する代償金の金額は大きくなります。
そこで法律は「寄与分」という制度を用意しています。被相続人の資産の形成や維持に多大な貢献(「特別な寄与」といいます)のあった相続人には、あらかじめ寄与分として遺産の一部を与え、残った遺産を法定相続人で分けるという制度です。長男に寄与分が認められれば、他の兄弟に代償金を支払うとしても金額を小さくすることができます。
ただし、実際には、寄与分が認められることは滅多にありません。被相続人との関係に基づいて「通常、期待されるような程度を越える貢献」が必要とされているからです。だから、たんに親を師匠として家業に従事し、親が高齢になって引退したときに家業を継いで当主となった程度では特別な寄与と認められません。
寄与分が認められるのは、例えば、入退院の繰り返しで仕事ができない親の代わりに長男が何十年も一人で家業を支えてきた、というような例外的な場合に限られるのです。もちろん他の兄弟も、若い頃に家業を手伝っていたという程度では寄与分は認められません。
相談者:
そうすると、ほとんどの場合に寄与分は認められないので、長男は兄弟に代償金を支払わないといけないのでしょうか。
日下部:
家業を存続させたいという思いがあることを前提に兄弟間で話し合いを進め、代償金の金額の落としどころを探っていくという解決方法があります。この方法が一番おすすめです。
相談者:
柔軟な解決方法もあるのですね。少し安心しました!
日下部:
また京都に来られるようになったら、いつでも遊びにきてください。これからも、Good Lifeを!