不可抗力にも例外がある

こんにちは、日下部です。今日は「不可抗力」について、解説します。

 新型コロナウイルス感染症の収束の目途がつかない状況が続いています。陽性者でなくても身近な人が感染すれば、濃厚接触者として自宅待機しなければなりません。そうなると、職場に行かないとできない業務がある人は仕事に支障をきたすことになります。

このような場合に生じた損害や業務の不履行の責任は、誰が取るのでしょうか。

民法に次のような規定があります。
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときまたはその債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない」

この規定に従う限り、自分のせいでなければ、賠償を免れることができます。

規定に書かれている「債務者の責めに帰することができない事由」は、一般的に、不可抗力と呼ばれています。例を挙げてみましょう。

  1. 自然災害・・・地震、津波、暴風雨、洪水、落雷、塩害等
  2. 人災・・・戦争、暴動、ストライキ、テロリズム、大規模火災、労働争議等
  3. その他・・・法令の制定・改廃、公権力による命令処分、輸送機関の事故、疫病等


 契約書を作成する際には、上記のような不可抗力の具体例の外に、最後に包括的文言を入れるのが慣例になっています。無用な争いを避けるために予め契約書に列挙しておこう、というわけですね。裏を返せば、何が不可抗力に該当するのか、それから、発生した場合の影響を事前に予測することは非常に難しい、ということです。

昨今は新型コロナウイルス感染症を受けて「感染症・伝染病」も具体例に含めるようになりました。リモートワークが普及した今では「通信障害」も不可抗力に該当しそうです。

ただし例外もあります。金銭の給付を目的とする債務の履行においては、不可抗力による免責が認められていません。ここでいう金銭の給付を目的とする債務の履行とは、代金や給与の支払いのことです。なぜ、このような例外があるのでしょうか。

 それは、金銭は品物と違って常に市場に流通しているので調達できないことが考えられないから、とされています。

一読すると、支払う側の責任だけが重くなる不公平な決まりに見えませんか。もし、金融システムに障害が発生したせいで振込が間に合わなかったとしても、賠償を追及されたら責任を取らなければなりません。ではなぜ、振込みを行った時点で責任を果たしたとは認められないのでしょうか。

近年、民法の改正により新たな規定として民法477条が作られました。
「債権者の預金または貯金の口座に対する振込みによってする弁済は、債権者がその預金または貯金に係る債権の債務者に対してその振込みにかかる金額の払い戻しを請求する権利を取得したときに、その効力を生ずる」

この規定によると、相手の口座への入金が記帳できてはじめて、支払者は責任を果たしたことになります。どうしようもない事故によるものなのに理不尽だ、民法は公平じゃないのか、厳しすぎると思われるかもしれません。しかし、これが民法の考える「公平」です。

元来、支払いは現金を持参して行うものでした。ですから現金を持ち運ぶ危険を避けるために金融システムを使った側が、不利益を受けるべき、という考えです。

電子マネーやタッチ決済が爆発的に普及した現在、システム障害が社会に及ぼす影響は計り知れません。日進月歩で変わるテクノロジーに対応できるよう、民法も変えていくべきかもしれませんね。

 

それでは、これからも、Good Lifeを!