親の心子知らず(遺留分と特別受益)

相談者:

 日下部先生はじめまして。不動産の相続のことでご相談があります。数年前に夫に先立たれた私には、息子と娘がいます。家を息子に継いでもらうため、所有している不動産は息子に相続させたいと思っています。娘には、彼女のために貯めているお金があるので、私が生きているあいだに本人に渡すつもりです。不動産を息子に譲るために遺言を残したいので、何かアドバイスをいただけないでしょうか。

 

日下部:

 ご相談ありがとうございます。ご家族のために遺言を書くことは大切なことです。遺言には息子さんに残す資産のことだけでなく、娘さんに渡す貯金のことも書かれた方が良いかもしれません。

 

相談者:

 え!?娘に渡すお金のことも遺言に書くんですか?

 

日下部:

 はい。遺言によって一人の相続人に不動産を譲った場合でも、他の相続人が主張すれば不動産の資産の一部を取得できる権利が認められているからです。これを「遺留分」といいます。また、娘さんにお渡しするお金は「特別受益」といって遺産とみなせるのですが、特別受益のことが遺言に書かれておらず、遺留分をめぐって揉めるケースがあるのです。具体的な事例をご紹介しましょう。

 

 Aさんには息子と娘の二人のお子さんがいました。息子は出来の良い子ですが、娘は何かと手がやける子でした。将来は息子に家を継がせたいと考えたAさんは、息子名義の家を建てました。ところが、息子が仕事で遠くへ行ってしまいその家が空いたので、代わりに娘夫婦を住まわせることにしたのです。安定した仕事に就かない夫と結婚し、経済的に不安定な暮らしをしている娘夫婦を助けてあげたいと思ったからでしょう。家賃はAさんが受け取っていましたが、早く自立してもらおうと相場より安くしていました。

 

 さらに水道光熱費はすべてAさんが負担していました。娘夫婦は、Aさんが亡くなる前まで30年近くその家に住み続けました。 ところがAさんは娘名義の口座を作って、もらった家賃を密かに貯金していたのです。当時は他人名義の口座も簡単に作れたんですね。そしてAさんは亡くなる直前に貯金を全額、娘に贈与しました。その額は利子も含めて1000万円超。娘はそのお金で家を買いました。

 

 その後、息子に全ての財産を相続させる内容の遺言を残してAさんは亡くなりました。すると娘は兄である息子に遺留分を支払うよう求めてきました。しかし結局、娘の主張は認められませんでした。なぜなら、Aさんが生前に娘に渡した1000万円超と、本来なら娘夫婦が負担するべき水道光熱費が、特別受益として扱われたからです。娘は遺留分として遺産総額の4分の1を取得する権利があります。遺産総額は不動産と特別受益を合計した、5000万円程でした。つまり、娘は既に遺留分に相当する額の遺産をもらっていたと評価されたのです。

 

 Aさんにしてみれば、自分が亡くなったあと子供達のあいだで相続争いが起きることほど悲しいことはありません。親の心子知らずとはよく言ったもの。Aさんの気持ちは娘さんに伝わらなかったのです。このようなトラブルが起きないよう、特別受益のことを遺言に書いておくことが大切です。

 

相談者:

 なるほど!娘と息子のあいだで揉めないよう、遺産総額を正しく把握することからはじめようと思います!

 

日下部:

 近年、相続に関するご相談が増えています。また何か分からないことがありましたら日下部法律事務所までご相談ください。これからも、Good Lifeを!

私がお答えしました!日下部弁護士