うつによる休業と業務起因性

 

 今回は、企業側からの依頼を想定して、うつを例に従業員の休業と業務起因性について解説していきます。

 

ストレスが多い現代社会では、精神的な病を患ってしまい仕事ができなくなる事態が日常的に発生しています。勤め先がブラック企業で、過酷な労働環境に耐えられず心身のバランスを崩してしまった、という話を度々聞くことがあります。

 

私の事務所は比較的、企業側からの依頼を多く受けてきました。休業している従業員から「うつ病と診断されました。職場環境に原因があります」ということで、企業側に休業損害の請求があった、というわけです。このとき論点になるのが、業務起因性です。うつ病を患った原因が、本当に企業側にあるのかどうか。必ずしも仕事だけに原因があるとは言い切れないケースもあるからです。うつ病は労働環境と私生活の問題が複合的にからまって発症することも珍しくありません。

 

 労働環境に問題がある具体的な例としては、長時間労働の常態化、過度のノルマ、役職の責任の重圧、能力を超えた業務量、職場内の人間関係、パワハラやセクハラ、取引先との人間関係、などが挙げられます。一方の私生活では、親族の不幸や病気、介護の負担、借金の返済、持病の悪化、突然の事故による大怪我、親との確執などがうつ病に追い込まれる原因になり得ます。

 

 では、業務起因性はどのように判断されるのでしょうか。

 

休業損害を巡る事例において、はじめから裁判になることは滅多にありません。労災の認定を受けた労働者が、労災給付金だけでは足りないからと慰謝料を企業側に請求し、企業側と争うことになれば、裁判で決着をつけることになります。

 

 労災の適用は、全国にある労働基準監督署が、労働者からの依頼に基づき調査を行い判断します。精神的な症状の原因を調査する場合では特に、客観的な事実関係を明らかにするために、広範にわたる調査が行われます。

 

例えば、労働時間の長さを調べるために、タイムカードを使わない職場であっても、考えられる他の方法によって調査が進められます。業務内容を明らかにするために、依頼者からの証言だけでなく社内外の多くの関係者から事情を聴取することも。他には、職場のハラスメントや私生活の問題の有無とその程度などが調べられることになります。

 

このように、労働基準監督署による調査は丁寧で、かなり入り込んだ内容になっています。そして、調査結果に基づき業務起因性の有無が(その濃淡も含めて)客観的に判断されるのです。この結果は、後の裁判にも大きく影響します。言い換えると、結果が出たあとにその内容を裁判で覆すのは企業側のみならず労働者にとってもなかなか難しい、ということです。

 

ですから、企業側は労働基準監督署による調査に協力したほうがよいでしょう。なぜなら、調査に対して非協力的な態度で応じれば、企業側にとって不利な認定がされかねないからです。業務や職場の人間関係には原因がないと考えるのなら、むしろ積極的に情報を開示するべきでしょう。

 

しかし、業務起因性が薄いことを分かりやすく提示するためには、それなりに準備して臨む必要があります。そのため、できるだけ早期に専門家に相談し、調査への対応を進めることをお勧めします。今回の解説は以上です。これからも、Good Lifeを!